2010年07月21日

夏休み特別企画ラジオドラマによる連続大学講座「メディアってなに?」第1話

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◆声の出演 
ナニ:三木華子 
教授/紺田:内屋敷保 
ヤン:金千秋
原作/脚本 山中速人
構成/編集 金千秋

第1話
プロローグ ナニ、市民ラジオとその仲間たちに出会う

シーン1
○モノローグ
 私の名前は、ナニ。ちょっと変わってるでしょ。ハワイ語で「美しい」という意味。なにごとにも凝り性なお父さんがつけてくれたの。ナニは、日本人の両親がハワイで暮らしているときに生まれた女の子。だから、日本とアメリカの二つの国籍をもっている。それで、高校はハワイの学校に通った。でも、そのあと、また日本に戻ってきて、春からこの街の大学に通ってる。この街は、ホノルルに似て、国際的な貿易港として発展してきたの。そんな多文化で海外に開かれた街に似て、自由で格式ばらない大学では、一年生から教授を囲んだ少人数のゼミに参加することができる。ナニは、ゼミを選ぶときに、映画やメディアが専門の教授のゼミを選んだの。
 キャンパス生活がはじまってしばらくした日、ゼミの教授の研究室をたずねたナニに、教授はこんな提案をしたんだよ。
○研究室のなか
教授「この町に、カモメFMという小さなラジオ局があってね。ぼくは、そこで映画評の番組を担当しているんだ。それで先日、局に行ったら、プロデューサ*7から、今、若者向けの番組作りに参加する学生スタッフを募集しているんですけれど、いい学生さんを紹介してくださいませんかって聞かれたんだ。そのとき、瞬間的にナニさんの顔を思い出した。で、二つ返事で、ぴったりの学生がいるって答えちゃった。でね、ナニさん。ぼくも手伝うから、この番組企画にぜひ参加してみない?」

○モノローグ
 この若者向けの番組というのは、メディアについての番組らしかった。テレビやインターネットなどメディアに取り囲まれている現代の若者にとって、メディアはまるで空気のようなもの。そのメディアについて、あらためてどう発達してきたのか、そして、現代の生活の中でどんな役割を果たし、どんな問題を抱えているか、根本のところから考え直そうと企画されたらしいの。

教授「とにかく、一度、このFM放送局を訪ねて、プロデューサのヤンさんに会ってみてごらん。きっと、興味がわいてくるから。」

○モノローグ
 教授にすすめられて、ナニは、そのラジオ番組に参加することになっちゃった。ナニらしい、いつものパターン。手と足が頭より先に動いてしまうんだから。
ナニ「ま、いいか。」
シーン2
○街の雑踏音
 カモメFMの放送局は、港へと続く長い坂を逆方向に登りつめたところにあった。
○ ドアを開ける音 背景にラジオトークが聞こえる
○ モノローグ
 ナニがカモメFMの玄関のドアを開けると、防音ガラスで仕切った小さなスタジオがあった。スタジオでは、女の人が、マイクに向かって一人でおしゃべりをしていた。ナニは、放送局というからには、厳重に警備されているビルディングや、たくさんのスタッフであふれかえるスタジオを想像していた。ところが、このあまりにシンプルで小さなスタジオ。びっくりしちゃった。
○放送が終わり、スタジオのドアが開く。
ヤン「あなたがナニさん? 教授から聞いてるわよ。今度の番組を手伝ってくれるんだってね。はじめまして、わたしはこのカモメFMのプロデューサで、ディレクター*11で、パーソナリティのヤンです。よろしくね。」
○モノローグ
 長い髪をおまんじゅうにして頭のてっぺんにまとめ、それに中華料理のお箸をぐいっと刺した四十歳を少し越えたくらいの女の人。ヤンっていうんだ。ふーん。
ヤン「教授から聞いていると思うけれど、今日ほど、メディアが若者の生活に浸透している時代はないと思うのよ。テレビやインターネットなどをとおして便利で役に立ちそうな情報がどんどん流れてくるでしょ。でも、若者たちは、そんな情報を、受け身になって丸飲みしていることが多いように思うの。でも実際は、政府や企業は、そんなメディアを使って、人々の意見や考え方を都合のいいようにコントロールしようとしているかもしれないのにね。」
「だから、今度の番組では、現代のメディアを批判的に考えるきっかけを提供したいと思うの。ぜひあなたのような若い人の力を借りたいのよ。期待してるからね。」
ナニ「はい、そうですね。そうできればいいんだけれど」
○モノローグ
 なりゆきでこたえちゃったけど。期待してるって言われても困るよ。 でも、ナニは、ヤンさんの言葉が分からないわけじゃなかった。というのはね、ナニがアメリカで生活していたとき、イラク戦争*12が始まった。アメリカのテレビは、アメリカ軍といっしょになってイラクに侵攻する軍隊の様子を、まるで戦争映画のように現地から伝えた。軍艦からはミサイル*が発射され、敵のフセイン大統領がすむ宮殿につぎつぎに命中した。
 でも、よく観ていると、ミサイルはバクダッドの街にも落ちていった。街に落ちたミサイルは一般市民を殺さなかったのだろうか。ブッシュ大統領は、911事件のテロリスト*13とフセイン大統領とはグルだと演説していたけれど、本当だろうか。ナニは、そんな疑問をもってテレビを観ていたんだ。ところが、テレビは、ますますエキサイトして、アメリカ軍の勝利を自慢げに報道していった。ナニは、それからテレビを疑うようになった。ナニがそんなことを考えていると、白いタオルを首にかけ、頭を短髪に刈り上げた、道路工事の現場監督風のおじさんが現れた。

○ドアが開く音
ヤン「びっくりしたでしょ。こちらが局長の紺田さん。この白いタオルはね、紺田さんのトレードマーク。この局が放送を開始したとき、紺田さん自身が工事を指揮したときからのシンボルってわけね。」
紺田「このカモメFMは、いわゆるマスメディアじゃないんだよ。このラジオ局は、日本ではコミュニティ放送局*15と呼ばれているんだ。政府の免許が必要な放送局としては、もっとも小さな放送局なんだ。でも、この局の歴史はとても変わってる。以前、この町が大きな災害にみまわれたことがあった。そのとき、被災した市民たちは、被災者がほんとうに必要としている情報を提供してくれて、さらに、被災者の気持ちを代弁してくれるメディアが必要だと感じていた。被災者の中には、日本人とは違ったことばや文化をもつ外国籍の市民たちもいた。ヤンさんもそんな一人だった。そして、そんな被災者たちが災害の混乱の中、力を出し合って立ち上げたラジオ局が、このカモメFMだったんだ。だから最初は政府の許可を得ていない無免許の放送局だった。そんな放送局のことを海賊放送局*16っていうんだけれど、知ってるかな? この局は、そんな市民たちの独立精神に支えられて放送を続けているんだよ。マスメディアにまかせるのではなく、市民自身が自分の力で情報を発信することのできるメディア。それが、このカモメFMなんだ。この白いタオルは、自分たちがすすんで汗を流して手作りするという局の精神のシンボルなんだよ。ほら首に掛けてあげよう」
ナニ「ありがとうございます」
紺田「このタオルがすっかりよれよれになるまでがんばれば、一人前ってことかな。」
○ モノローグ
 日本には、放送法*17という法律があって、放送局を開設するには政府の許可が必要だという。ずいぶん不自由な国だなあと思っていた。でも、そんな国にも、カモメFMのような放送局があることを知って、ナニは、なんだかうれしくなってきた。
「がんばらなきゃ。」
「自分で言うのも変だけれど、わたしって、なんてケナゲな女の子なの!」
○モノローグ
 その後、ナニは、ヤンさんや紺田さんをはじめ、この小さなラジオ局にかかわるスタッフやボランティアたちと会議をかさね、担当する番組の構成案をねり上げたの。そして、最終的に、タイトルは、シリーズ番組「ナニの連続ラジオ講座・メディアってなに?」と決まった。毎回、メディアについて異なったテーマを取り上げ、若者を代表してナニが聴き役をつとめながら、教授やゲストにお話をしてもらう。ときにはヤンさんにも、話に加わってもらう。そして、番組の最後は、ナニがキャスターとしてしめくくる。そんなやり方で、番組を進めることになった。こうして、ナニのラジオキャスター*18としての奮闘が始まった。

◆プロローグ 語句解説◆
メリーモナーク・フラフェスティバル*1 (Merrie Monarch Hula Festival)ハワイ先住民族文化の復興をめざして、一九六三年以来、毎年春先にハワイ島のヒロ市で開催される世界最大のフラ・フェスティバル。
『娘と映画をみて話す、民族問題ってなに?』*2 拙著、現代企画室、二〇〇七年。
ロコ*3 ローカル(Local)のハワイ方言でハワイ地元出身者の意味。
グランドクルー*4 (Grand clue)空港地上職員
クムフラ*5 (Kumu Hula)フラの舞踏グループ(Hula Halau)を率いる師匠。
ホストペアレンツ*6 (Host parents)下宿生を引き受ける里親。
プロデューサ*7 (Producer) 一般的に、放送番組の総責任者として、企画、予算、制作など全行程の責任を負う役職。
海外移住者*8 一八六八年のハワイ移民を皮切りに、海外に仕事や農地を求めて移住していった日本人たち。戦前はアメリカ、戦後は中南米諸国への多数の移住が行われた。
パーソナリティ*9 本来のpersonalityは人格を指す心理学用語であるが、放送用語では、ラジオのトーク番組の司会者のこと。
ミキサー*10 (mixer)放送や録音スタジオなどで、異なった複数の音響信号のレベルや音質を調整し、混合するために使用する機械。
ディレクター*11 (Director) 一般的には、職種の異なるスタッフを統括し、番組全体の進行と構成を担当する職種。
イラク戦争*12  二〇〇三年三月十九日に、アメリカ合衆国が主導し、イギリス、オーストラリア、ポーランドなどが加わって、イラクの大量破壊兵器の保有による危機を口実に、同国に侵攻した戦争。その後、泥沼化した。
九・一一事件のテロリスト*13 アメリカ政府の捜査では、オサマ・ビンラディンをリーダーとするテロ組織アルカーイダが犯行を行ったとされている。
ハリウッドスマイル*14 唇を横に開き、歯列を露出させながら口蓋を上げてみせる笑い方。ハリウッドスターの写真撮影の際に多用されたので、この名称がつけられた。
コミュニティ放送局*15 放送法施行規則別表第一号の定義では、一の市町村(政令指定都市については区)における需要にこたえるための放送をいう。
海賊放送局*16 正式な放送免許を持たず放送を行う放送局のこと、ラジオ局が多い。船舶に送信機を積んで、その国の領海外から放送するケースが多かったため、この名称が付けられた。
放送法*17 一九五〇年に成功された、放送一般、日本放送協会(NHK)、放送事業者全般を規制する日本の国内法。日本におけるすべての放送および放送を行う者は、この法律によって規制をうける。
キャスター*18 ニュース番組やトーク番組をリードする役割をもつ高度な権限と能力をもつ総合司会者。アメリカでは高い権限と権威が与えられているが、日本では、ただの番組の進行役を指すことが多い。

posted by FMYY at 19:53| Comment(0) | TrackBack(0) | ポッドキャスティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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