2009年08月25日

阪神芦屋ワインガーデンが贈るワインの楽しみ(4)

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ご案内はいつものように阪神芦屋ワインガーデンリブゴーシュのオーナー細谷志朗さん、お相手は今週から西坂瑠璃さんに代わります。
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☆ワインの飲み頃
今日は「ワインの飲み頃」についてお話しさせていただきます。ワインにはそれぞれそのワインが一番美味しく感じられる時期(飲み頃)があります。飲み頃のワインは、たとえばブルゴーニュの赤ワインであれば、まばゆいばかりに輝くルビー色を呈し、カシスやフランボワーズなどの赤い果実のアロマ、ヴァニラや皮革のブーケが心地よく、一口含めばその柔和な表情に驚かされ、甘味・酸味・渋味が一体となって口一杯に広がり、何の抵抗もなく喉元をを通り過ぎ、五臓六腑にしみわたります。またシャンパーニュであれば、これに加えて、グラスの縁に耳を近づけると炭酸ガスのはじける何ともいえないかわいい音までも聞こえてきます。視覚、味覚、嗅覚、触覚、聴覚の五感のすべての感覚を心地よく刺激してくれるのです。飲み頃のファインワインを飲まずして、ワインの本質を知ることなどできません。
ここで、今まさにワインを開けようとするとき「ワインの状態」にもよりますが、今飲んで美味しく飲める、すなわち、このワインは飲み頃か否かという問題が発生します。
たとえば、毎年11月の第3木曜日に解禁されます「ボージョレ・ヌーヴォー」の場合はセラーで寝かせて美味しくなるものではなく、あくまでも年内のクリスマスまでには飲み切ってしまうワインです。また自分の子供の誕生年のワインをセラーで保管し、成人式の日に家族で開ける大切な1本は、少なくとも20年は美味しく熟成するものでなければなりません。当然そのような熟成ポテンシャルを持っているワインは種類も限定され、もちろん高価になります。
一般的に言って、小売価格で3,000円以下のほとんどのワインはリリース直後からおいしく飲めるようになっています。そして3〜5年以内には飲みきるべきものです。それ以上セラーで寝かせておいても品質の向上はそれほど期待できません。ところが、それ以上の価格帯のファインワインは(時にはそれ以下のものでも)、ワインセラーで数年から数十年の瓶熟成を経て始めて、角が取れまろやかなバランスのとれた味わいになるのです。残念ながら、そのような若いワインは購入後すぐ開栓しても本当の意味で美味しいとはいえないのです。このようなワインは、製品としては未熟な段階で市場に出るため、ワインショップや個人のセラーでの瓶熟成が欠かせません。
ここでワインの一生を少し詳しくみていきましょう。
フランスの赤ワインを代表するボルドー五大シャトーのひとつ「シャトー・マルゴー」の今からちょうど20年前に収穫された1989年産を例にとってその熟成の変化を見てみましょう。
@1992年〜1994年頃(1994年試飲)
色は黒紫がかった赤。香りはカシスやチョコレート。リリース直後の若々しい時期でしたが、1989年産ボルドーの特徴であるおとなしい酸
A1995年頃〜2009年頃(2000年試飲)
色は紫がかった赤。香りは少し焦げた感じ、全体的に閉じ気味。タンニン(渋味)が強く少し飲みづらかった記憶があります。
B2010年頃〜2025年頃
あるワイン評論家による飲み頃予想。飲み頃が15年間続く?
C2026年頃〜
すでにピークは過ぎ、徐々に衰退していく?
以上4つの時期に分けることができそうです。もちろん2010年以降のコメントはあくまでも予想です。
この1989年産シャトー・マルゴーというワインは、リリース直後は結構美味しく、その後15年ほど熟成の途上、すなわち味わいの閉じている時期があり、2010年ぐらいから飲み頃が始まり、以後15年間は美味しく飲めそうです。
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<赤>2004 キアンティ・クラッシコ(カーザフラッシ)2004Chianti Classico Casafrassi参考価格:3,000円(税別)生産地:イタリア,トスカーナ州キアンティ・クラッシコDOCG生産者:カーザフラッシ品 種:サンジョヴェーゼ主体
カーザフラッシのキアンティは,トスカーナの牧歌的な美味しさを感じます。おおらかで豊かで素直な赤。飲み手をやさしい気持ちにさせる癒し系(?)ワイン。かけがえのない個性を持ったキアンティです。

例によって、そのボトルの保管情況や同一ロットでもボトルごとの個体差もありますので、なかなか予想通りにはならないかも知れませんが。
くり返しますが、この飲み頃予想は1989年産のシャトー・マルゴーに関するもので、翌年1990年産のシャトー・マルゴーは前述の評論家の飲み頃予想では2007年〜2020年となっています。別の五大シャトー、「シャトー・ラトゥール」の1989年産は同じく2012年〜2030年となっています。このように生産年(ヴィンテージといいます)、生産者、ブドウ畑ごとに、すなわちその年の天候や「テロワール」、生産者のポリシーによりブドウの出来ひいてはワインの出来は全く異なります。したがって、それぞれに飲み頃が違ってくるのです。
ところで、「飲み頃を過ぎたワイン」とはどのようなものなのでしょう。色は茶褐色に近づき、すえた匂いがし(専門用語でくさったキャベツのような臭いと表現します)、味わいは平板で、力が感じられません。過剰な酸味を感じるときもあります。どうみても美味しいと思える代物ではありません。
さて、シャトー・マルゴーのように小売価格が50,000〜1,000,000円もするような最上級の赤ワインの話はひとまずおいて、より現実的に小売価格で5,000円程度のファインワインの飲み頃について考えてみましょう。この価格帯のものであれば、国内リリース後1年間セラーで熟成させることにより、劇的に美味しくなります。もちろん5年程度熟成させても面白いと思います。たとえば、このクラスのファインワインを12本まとめて購入し、毎年1本ずつ記念日に開けてみるのも12年間の熟成のプロセスを実感できてたいへん楽しいものです。


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2009年08月18日

阪神芦屋ワインガーデンが贈るワインの楽しみ(3)

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☆ワインの状態
今日は「ワインの状態」についてお話しをさせていただきます。
前回「ファインワインとは何か」というお話をさせていただきました。今回は、今、目の前にあるファインワインを味わう前に、そのワインは美味しく飲める状態にあるのか否かについて考えてみたいと思います。
「ワインの状態」は、輸送と保管の2点に大きく依存します。
まず輸送の問題について。
今、目の前にあるワインはどのようにして、このスタジオのテーブルの上までやってきたのでしょうか。
このフランス、ラングドック地方産の赤ワインの場合。
@現地ワイナリーのセラーから大西洋に面したノルマンディ地方ル・アーブル港(パリから北西150キロメートルにあるセーヌ川の河口にある港)まで陸上輸送。
Aル・アーブル港の倉庫から船積み後、大西洋からアフリカ最南端の喜望峰を回り、インド洋を経て、約1ヶ月半ほどで日本の横浜港まで海上輸送。
※現在ソマリア沖にて海賊が頻出していますので、スエズ運河経由でインド洋に出ることができません。航行距離にして6,500キロメートルのロスがあります。
B横浜港の倉庫からワイン輸入元の都内の契約倉庫まで陸上輸送。
C輸入元の倉庫からワインショップのセラーまで陸上輸送。
Dワインショップで購入後、スタジオへ持参。
遠い海のかなたから3万キロメートルを超える長旅に耐えて、このスタジオまではるばるやってきたわけです。
実はファインワインはたいへん温度変化に敏感です。
急激に保管温度が上昇すると、内部のワインが膨張し、コルクとガラス瓶のわずかなすきまからワインが噴き出る場合があります。こうなってしまっては、せっかくのファインワインも品質は劣化したと考えざるを得ません。
またファインワインは基本的に無ろ過で瓶詰されていることが多いため、ある程度の時間25℃以上のところに放置された場合は、ボトル内に生きたまま残っている酵母が活動を始め、ワインの残糖分と反応し再醗酵が起きます。そうなると少量のアルコールと炭酸ガスが発生し、味わいのバランスが著しくくずれるのです。

かつて作家の開高健氏が『最後の晩餐』の中で、ボルドーのワインは頑健なので日本で飲んでも現地で飲んでもさほど変わらないが、ブルゴーニュワインは繊細なので日本ではなかなか美味しいワインにめぐり合わないというようなことを書いておられました。1970年代当時はまだワイン輸入に関して定温輸送が実現していなかった時代でしたので、当然だったかもしれません。

というわけで、さきほどのワインの長旅@〜Dのすべての段階において、現地の地下セラーと同様の13〜15℃での定温管理が必要になってくるわけです。

ワインの裏ラベルなどに「リーファーコンテナ使用」という表示のあるものをよく見かけます。これはAの段階は定温輸送しているという、ワイン輸入元の品質保証です。意地悪く見ると、@、B、Cの段階については定温輸送の保証をしているわけではないのです。
それゆえ、「リーファーコンテナ使用」という表示だけでは、完璧な状態で輸送されているかどうか疑わしいわけです。

@〜Cの段階すべてに定温輸送を行った場合、ボトル1本当たりの輸送コストは300〜400円になるといわれています。逆に最も簡便な輸送方法で輸入した場合は、1本当たりの輸送コストは100円以下で済むのです。
もちろん、それは小売価格にも影響を与えます。1,000円以下で販売されている輸入ワインの輸送コストは推して知るべしです。
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本日のワインは<赤>
2006 フォジェール(レオン・バラル)
2006 Faugeres domaine Leon Barral
参考価格:3,000円(税別)
生産地:フランス,ラングドック・ルーション地方フォジェールAOC
生産者:レオン・バラル
品 種:カリニャン60%,グルナッシュ30%,サンソー10%

1993年からドメーヌ元詰を始めた新進気鋭の生産者。
1994年ヴィンテージですでにラングドックを代表する造り手とし
ての名声を得ましたが,それにあきたらず高い理想に向かって邁進
しています。1995年より有機農法の認証も受け,さらに現在は醸造
過程で酸化防止剤を使用しないという可能な限り自然なワイン造り
をめざしています。 味わいは気品にあふれ,凝縮した奥行きのある旨味が飲み手を優しく包み込んでくれます。

では、一般の消費者はどうやって完璧な状態で輸入されているファインワインとそうでないものを見分けることができるのでしょうか? それについては第7回「ワインの買い方・選び方」でお話しますのでしばらくお待ちください。

次に保管の問題です。
2ヶ月以上もの間、大西洋やインド洋の荒波にもまれてはるばる日本にやって来たワインは、たとえ完璧に定温輸送されているワインでも、いわゆる「旅疲れ」といって酸味・甘味・渋味など味の構成要素がバラバラになっているときがあります。その場合は輸入元の定温倉庫かワインショップのセラーでしばらくの間休ませなければなりません。その休養期間は一般的に長旅の日数と同じくらいが目安になります。すなわち50〜60日程度はセラー内で落ち着かせる必要があるのです。
通常の意味でワインショップ内での保管の問題、すなわちワインを直射日光にあてない、店内は真夏でも23℃以下に、などはいうまでもありません。
またファインワインの中には醸造時、瓶詰時ともに酸化防止剤不使用という極端なワインもあります。このようなワインはガラス細工のように繊細です。必ず13〜15℃のセラーにて安置する必要があります。
最後になりました。
輸送問題Dのワインショップで購入後についてです。
お客様のファインワインに対する温度管理が意外と忘れられています。
ワイン購入後、特に夏期(5月〜10月)は保冷バッグに入れて持ち帰っていただくか、クール宅配便で自宅まで配送させていただくかをおすすめします。
またご自宅にワインセラーをお持ちでないお客様は、夏期はとりあえず冷蔵庫の野菜室に赤も白も避難させてください。そうでないとひと夏でファインワインは劣化します。
なおワインセラーをお持ちの場合は、できれば購入後すぐに開栓するのではなく、一週間程度セラーで休ませてから、お飲みいただくとより美味しくいただけると思います。
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2009年08月11日

阪神芦屋ワインガーデンが贈るワインの楽しみ(2)

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☆ファインワインって何?
今日は「ファインワインって何」というテーマでお話しをさせていただきます。
"fine wine"とは、英語で「高品質なワイン」という意味です。
ここでは、もう少し踏み込んで「ワイン産地の個性の出ているワイン」と定義したいと思います。

そもそもファインワインとは、@ブドウ栽培に適したすぐれた畑があり、Aそこに適切なブドウ品種が植えられ、B年間を通じての畑の手入れと収穫および醸造を丹精込めて行う人がいる、という3条件がそろって始めてできあがるものなのです。
もう少し詳しくみていきましょう。
@のブドウ栽培に適したすぐれた畑とは、まさに「テロワール("terroir" フランス語。気候、風土、土壌、そしてそこに生息する動植物という様々な環境要素を含んだ意味でのブドウ畑のこと。英語の"vineyard"は単なるブドウ畑の意。)」のことです。
この「テロワール」こそが最も重要なのです。

たとえば、あなたは今、ある夏の日にフランス・ブルゴーニュ地方の高名なブドウ畑の前にたたずんでいるとしましょう。ブドウ畑を良く見ると、少し南にふった東向きのゆるやかな斜面になっていることにあなたは気付くはずです。6月なのに日本より暑く感じたかもしれません。湿気は少ないが、日差しがやけに強く感じられたかも。ところが、太陽が傾き始めると(午後9時ごろか)半袖姿のあなたは急に肌寒くなってきたりして…。
こんなありふれてはいますが、毎年少しずつ異なる季節の移り変わりがブドウの成長に微妙な変化をもたらすことは、容易に想像できます。こうして暑い夏が終わり、収穫の季節が始まります。収穫が終わると、冬の間ブドウ樹は休眠期にはいり、春の訪れを待つのです。そんなブドウ畑の四季をも含めた畑を取り巻く環境世界の成果がブドウの果実一粒、一粒に凝縮されているわけなのです。

Aの適切なブドウ品種を選定するとは、その畑(テロワール)に適した品種を植えなければ、健全で美味な果実は得られないという至極当たり前のことです。

1960年代後半アメリカのオレゴン州でたまたまピノ・ノワールが植えられたことで、今日のオレゴン産ピノ・ノワールの隆盛があるのです。これがもしカベルネ・ソーヴィニョンであったなら、こうはならなかったでしょう。同様に日本にいおいては、メルローは国際的に比較しても見劣りのしない、素晴らしいワインができつつあります。しかしながら、カベルネ・ソーヴィニョンでは一部の例外を除いてなかなか困難であるようです。

Bは「人」の問題です。
テロワールを愛し、ワインを愛する人たちが、四季を通じてブドウ樹の世話を愛情を込めて行い、できるだけ自然にまかせたワイン造りをし、そうして出来上がったそのありのままのワインをボトルの中に閉じ込める、ということです。

具体的には、可能な限り農薬(特に除草剤)を使用しない、肥料も化学的に合成された物質は使用せずにブドウを育て、さらに単位面積あたりの収穫量をできるだけ制限するということ。もちろん収穫は機械ではなく人の手で摘み、未熟な果実や腐敗した果実をすべて取り除き(選果といいます)、その健全な果実をやさしく搾汁する。
次に、ワイン造りすなわち醸造の過程では、可能な限り酸化防止剤を使用せず、ブドウの果実に付着している野生の酵母を利用して醗酵を行う(培養酵母を使用しない)。木樽による熟成が完了した後、澱(オリ)下げはせず、ろ過もせず、瓶詰を行うということ。

前述の3条件を満たすものがファインワインと言えるわけですが、これは「自然派ワイン」の定義とほぼ同じではないかという疑問を持たれる向きも多いかと思います。確かに可能な限り自然なブドウ栽培と自然なワイン醸造という点では重なり合う部分が多いのは事実です。

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ところで、自然派と呼ばれる生産者の中には極端なワイン造りを行う紀元前1000年ごろに古代ギリシャ人によって,まずシチリア島にワイン造りが伝えられたといわれています。ベルギー人で元ワイン・エージェントのフランク・コーネリッセンという生産者はその当時(3000年前)の栽培および醸造技法をそのままシチリアで再現し,ワイン造りを行っています。すなわち、ブドウ畑では不耕起(畑を耕さない)、無農薬、無肥料、無除草の自然農法を実践し(ただし剪定などの最低限の手入れは行う)、醸造所ではアンフォラ(150〜400リットルの素焼きのつぼ)を使用して醗酵および熟成を行っているのです。酸化防止剤(二酸化イオウ)はもちろん無添加。このように人的介入を極限まで廃した「究極の自然派ワイン」造りを行う人まで現れています。しかしながら、このようにしてできたワインが現代人の味覚に合っているかと尋ねられたならば、確かに面白いワインではありますが、積極的にお奨めはできないでしょう。

私の考えるファインワインとは、このような極端なワインではありません。
果実の旨味と酸味と渋味のバランスのとれた普通に美味しいワインなのです。

2007年の春に大阪で世界屈指のワイン醸造家ポール・ドレイパー(カリフォルニア最良の生産者のひとつリッジヴィンヤーズのCEO兼ワインメーカー)の講演がありました。 その講演のタイトルは「自然なワイン造りの哲学」。英文の表記は"The Philosophy of Natural Winegrowing"(Winemakingではないところに注意!)でした。
その内容は、「可能な限り農薬を使用しないで健全なブドウを育て、収量を低く抑え、天然酵母で醗酵させ、過剰な新樽信仰をも排し適切な樽熟成を行う」というものでした。
まさにワインを造るのではなく、育てるのです。

言い換えれば「テロワールの表現としてのワイン(フランス語では"Vin de Terroir"と言います)」ということになります。

ちなみにそのテロワールが育む味わいのことを2004年のフランス=アメリカ合作映画『モンドヴィーノ』では「地味」(まさに派手ではなく地味!?)と訳していました。


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2009年08月04日

阪神芦屋ワインガーデンが贈るワインの楽しみ(1)

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☆ワインがわからない!
今日は「ワインがわからない!」というテーマでお話をさせていただきます。
私どもにワインを買いに来られるお客様(男性女性にかかわらず)がよく使われる言葉に「私はワインがわからないので…」というものがあります。 この言葉を聞くたびに、未だにワインは非日常なもの、特別なもの、身近でないものなのだと感じ、私は悲しくなります。この言葉は日本人特有の謙遜した言い回しともいえますし、当店をワイン専門店として信頼していただいていることの証だとも思います。残念ながら店頭でその言葉を聞かない日はありません。
それでは「日本酒はおわかりになるのですか?」というようないじわるな質問をしてみたくなります。
日本人は本当に「日本酒をわかっている」のでしょうか。国内の蔵元の総数は現在1,900件程度です(ちなみに1970年当時は3,500件を超えていました)。これだけの数の蔵元が清酒を生産しているわけです。その中には吟醸酒、純米酒、本醸造酒、普通酒などなど様々なタイプの清酒があり、その原料となる「米と水」に関しても山田錦や美山錦を初めとする数十種類もの酒造好適米、軟水から硬水までその地域ごとに色々な水質の水があるわけです。これだけ多種多様な日本酒をすべて飲んだことのある人はほとんどいないと思います。そこまで広げなくとも代表的な100件ほどの蔵元の日本酒を飲んで知っているという人は、専門家や業界関係者でない限りほとんどいないのではないでしょうか。ということは本当に「日本酒がわかる」人は地酒マニアのようなごく少数の人たちだけということになるのではないでしょうか。
 生粋の関西人である私も、地元の灘の銘柄(現在29件の蔵元がある)をすべて飲んでいませんし、日本酒を飲む機会も年間数回程度です。にもかかわらず、「日本酒はわかるけれど、ワインはわからない」。でも本当に「日本酒がわかっている」人はごくわずか。つまり「日本酒は慣れているけれど、ワインは慣れていない」というところでしょうか。その日本酒でさえ、焼酎ブームのあおりをまともに受け、2006年度の国民1人当たりの消費量では日本酒6.7リットルに対し、焼酎9.8リットルとはかなり厳しい情況です(ちなみにワインは2.2リットルで消費量では日本酒の1/3程度)。現在日本酒の愛好者は50才以上の中高年の男性が中心といわれています。となると「日本酒がわからない」という言葉が聞かれるのもそう遠くない日かもしれません。ところで、ワインの本場ヨーロッパのごく普通の人々はワインをわかっているのでしょうか。
たとえば、イタリアはトスカーナ州の人たちはどうなのでしょうか。
トスカーナといえば、イタリアを代表する赤ワイン「キアンティ」の地元。キアンティを名乗れる産地は南北160キロメートルの長さがあり、フィレンツェとシエナにはさまれたキアンティの中心地である「キアンティ・クラッシコ」は南北40キロメートルほどです。「キアンティ・クラッシコ」だけでも600件以上の生産者があります。いくらその土地に住んでいる人たちといえども、そのすべてを飲んだことのある人は専門家以外にはいないと思います。もちろん、たまたま住んでいた家の近くにワイナリー(醸造所)があって、そこのキアンティを良く飲んだという経験はトスカーナ人であれば、ままあることだと思いますが…。また北西へ300キロメートル以上離れたところで造られるピエモンテ州の最高の赤ワイン「バローロ」に詳しいトスカーナ在住の人はほとんどいないのではないでしょうか。さらに話を広げますと、イタリア全土ではDOCおよびDOCGと呼ばれる原産地、原料ブドウ品種、醸造方法などが法律で規定されている(上級)ワインは2008年現在であわせて376種類もあります。それぞれのワインについて多くの生産者が存在します(キアンティ・クラッシコだけで600以上!)ので、イタリア全土では何万種類ものワインが存在することは容易に想像できます。イタリアワインの専門家でさえ全部を試飲できた人はほとんどいないのではないでしょうか。すなわちイタリアワインを本当にわかっている人は、専門家以外にはほとんどいないといえそうです。なのにイタリア人は「ワインをわからない」とは決して言わないと思うのです。 それだけ自国のワインに慣れ親しんでいるということなのです。
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さて、これだけ食生活が洋風化し、ワインも様々なところで少なからず飲んでいるにもかかわらず(日本酒はほとんど飲まない!?)、やはり「ワインはわからない」とおっしゃる方が多いと店頭で接客をしていてほぼ毎日のように感じています。
どうやら、ただ単に「慣れ」だけの問題ではなさそうです。
では、なぜ「ワインがわからない」のでしょうか?
それは、ファインワイン(=高品質ワイン)を飲んでいないからではないでしょうか。
ワインはまあ美味しいけれど世間でいわれるほどではない、と思っていませんか。
たとえば、渋味の強い赤ワインを飲んで周りの人は美味しいと言うけれど私はちょっと渋すぎて…とか、酸味の強い白ワインを飲んでやはり周りの人は美味しいと言うけれど私にはちょっと合わないかも…、というように思っている方が案外多いのではないでしょうか。
 とりあえず、ワインは美味しいらしいが、自分の舌が間違っているのか、ワインが体質的に合わないのか…、本当に心の底から「美味しい」と感じられない。それゆえ「ワインはわからない」ということなのではないでしょうか。
1880年代後半鹿鳴館華やかなりし頃、日本の上流階級は初めてワインの味を知りました。それから120年経った現代においてもなお「ワインはわからない」のです。その間1964年(東京オリンピック)〜70年(大阪万博)の第1次ワインブームから1995年頃の第5次ワインブームまで5回もワインブームがあったのにもかかわらずです。
2007年に初めて発売された『ミシュランガイド東京版』が世界中のミシュランガイドの中で「星」の数が最も多かったことからもわかるように、日本人の味覚は世界トップレベルだと私は思います。そんなグルメな日本人がワインを飲んでわからないなんてありえません!


posted by FMYY at 11:24| Comment(0) | TrackBack(1) | ポッドキャスティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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